自律神経の乱れで硬くなった筋にアプローチ
新型コロナ後遺症外来における物理療法機器の活用術
ヒラハタクリニック
1985年に東京・渋谷で開院したヒラハタクリニック。2008年から先代を引き継いだ平畑光一院長は、ある患者様の受診をきっかけに2020年3月に新型コロナ後遺症外来を開設し、現在も多くの方の治療に取り組まれています。そのひとつの手段として、物理療法機器の活用を選択。新型コロナ後遺症の影響で倦怠感や疲労感を抱えると同時に、自律神経が乱れることにより脊柱起立筋や大腰筋が硬くなっている患者様に対して、電気治療器(立体動態波)や超音波治療器を用いて症状の改善を促されています。
先生が院長を引き継がれた当初は消化器内科がメインだったそうですが、どのような経緯で新型コロナ後遺症外来を開設されたのでしょうか?
もともと当院は内科・消化器内科として、周辺の企業の健康診断や一般診療を行っていて、特に先代の父は、膵臓の機能が低下した患者様向けの診療を提供していました。そんな父からクリニックを引き継いで12年が経った2020年3月に、当時は未知のウイルスだった新型コロナウイルス感染症らしきものに罹り、微熱や倦怠感、身体の痛みが続くという方を診察したのが新型コロナ後遺症外来のはじまりでした。当時はまだ感染者が出たばかりで、これからどうなるのだろう?と世の中が混乱しはじめていた時期でしたが、その頃にはもう後遺症の方が来ていたのです。今思えば全国のクリニックでも同様の患者様がいたのではないでしょうか。その患者様を皮切りに300人ほど診療したところで、2020年10月にテレビの番組で当院が取り上げられました。そのとき腹を括ってやって行こうと決めて新型コロナ後遺症外来の看板を出しました。まだ全国を見渡してもそのような看板を掲げるところがない頃ですから、一部の方からは理解されず、ずいぶんと叩かれました。しかし、私の目の前には苦しんでいる患者様がいるので、ここで折れてはいけないと思ってやり続けました。
新型コロナ後遺症の患者様はどのような症状でご来院されますか?
後遺症の症状は200種類くらいあると言われているので、あらゆる症状が当てはまります。報道でよく言われていた脱毛や味覚障害などは半数程度で、最も多いのは倦怠感と頭が回らなくなり思考力が低下するブレインフォグです。当院の問診データでは90%くらいの患者様が訴えています。なかにはその症状を理由に仕事を失ったり学校に行けなくなったりする方や、症状がきつくて自ら命を絶たれた方もいます。それくらい辛い症状であるにも関わらず、まわりに理解されず苦しまれている方がたくさんいます。そのような問題がある一方で、様々な事情で新型コロナ後遺症外来を掲げる院の数が減少しているという現実がありますが、私は後遺症に苦しむ方々を1人でも多く救いたいという思いを強く持っています。
症状が倦怠感や頭がぼんやりする感覚だけだと患者様自体が受診に消極的なケースもありますよね。
たしかに患者様が症状を訴えても理解されないという経験を一度でもしてしまうと、トラウマになって相談するのが怖くなってしまうこともあります。もちろん症状を聞く先生側にも知識がないといけませんが、逆に言うと新型コロナ後遺症の症状や治療の知識さえあれば、筋骨格系の調整だけで症状がかなり良くなるということがあります。それが広く知られていけば、後遺症に苦しむ患者様が治療を受けられる機関がもっと増えると考えています。そういった施設が各地域に一施設あるだけでもかなり変わると思います。
「筋骨格系の調整」というワードが出ましたが、電気治療器や超音波治療器などの物理療法機器を導入したきっかけもそのようなところにあるのでしょうか?
倦怠感や疲労感を抱える患者様のほとんどが脊柱起立筋や大腰筋が硬くなっていたので、そこを緩めるために超音波治療器を試してみたいと思い、伊藤超短波さんに問い合わせました。症状を相談すると「それなら電気治療器の方が良いかもしれません」とのことでしたので、超音波治療器と電気治療器をそれぞれ試してみました。結果的には両方使用した方が患者様の治りが良かったですね。具体的には、まず電気治療器の立体動態波で自律神経にアプローチして下地処理します。それでも硬さが残る方には超音波を当てていきます。
自律神経系からくる症状で身体が硬くなるというのはどのようなことでしょうか?
私の考えですが、基本的には交感神経が高ぶっている場合が多いのだと思います。新型コロナウイルス感染症に罹患すると副交感神経に影響が出ることは論文にも出ていて、そうすると自律神経の天秤が交感神経側に一気に傾いて、脊柱起立筋や大腰筋が硬くなります。筋緊張は身体に伝わると交感神経をさらに刺激します。そのような悪循環が起きているのだと思います。身体にずっと力が入っているので、呼吸機能も落ちて酸欠状態になります。その状態では倦怠感や疲労感といった主訴も良くなりません。重症の患者様は散歩程度の運動も難しいため、酸欠状態にならないような生活を維持しながら、脊柱起立筋や大腰筋を緩めたり動かしたりする治療が必要になります。ここが一番重要なポイントになります。物理療法機器を導入する前は頭皮鍼という治療を行っていましたが、治療の痛みで交感神経系が高ぶってしまうこともあるので困っていました。一方で立体動態波や超音波は、脊柱起立筋や大腰筋をほぐす際も痛みがないので本当に役立っています。
物理療法機器での治療が必要な患者様を、どのように見極めているのでしょうか?
立体動態波だけで治療が済む方と超音波も必要な方がいます。具体的な見極めですが、ハンディ型の電気マッサージ器をスクリーニングに使用しています。このマッサージ器を大腰筋に当ててみて、足が楽に上がるようになれば立体動態波に加えて超音波の適用として判断します。大腰筋の硬さが原因で足がだるいという方には、超音波を当てることで緩めることができます。その結果、可動域が広がって、症状の緩解を早めることができます。動きやすくなるという目に見える変化があると同時に、痛みも軽減されるので患者様にとって良いことづくしですね。
物理療法機器を使用した後の患者様のお声にはどのようなものがありますか?
立体動態波や超音波を含めて治療した翌日に、「すごく楽になった」「もう治ったのではないかと思った」というお声をよくいただきます。呼吸が楽になったり、光が眩しくて見られなかった方が見られるようになったり、頭がモヤモヤしていたがスッキリしたという方もいらっしゃいます。治療自体は画一的にやっているのですが、自律神経のバランスが整えられることで得られる効果は人それぞれです。
物理療法機器を導入して、これまでの治療と何が一番変わりましたか?
「物理療法機器を使えばここまで治る」ということが分かったことで、新型コロナ後遺症へのアプローチが変わりました。今は治療効果に手応えを感じているので筋骨格系の治療を重視するようになっています。施術後の運動指導にも力を入れていて、物理療法が効くと分かっている患者様には、疲れない範囲でどんどん動いてもらう方向にシフトしています。今はもう物理療法機器が無くてはならないものになっています。
内科・消化器内科の先生にとって、物理療法は馴染みの薄い分野だったと思うのですが、どのような思いで取り入れられたのでしょうか?
実は江戸時代の漢方の先生に憧れを持っています。昔の先生は漢方薬を処方しているだけでなく、鍼灸や今でいう柔道整復のようなこともやって患者様をトータルで診ていたそうです。それがかっこいいなと思い、常々私もそうありたいと思ってきました。現代の医療は細分化されていて、検査で異常がなければ病気ではないというような風潮もありますが、もしかしたら現時点で検査の精度が追いついていないだけ、検査機器の開発ができていないだけかもしれません。そう考えると特定の分野だけでは解決できない部分もあると思うので、鍼灸や物理療法にも興味を持って学んでいます。私自身、消化器内視鏡専門医なので、もともと手技は好きなのですが、物理療法の世界も奥が深くて面白いなと感じています。
今後、伊藤超短波や物理療法機器に期待することをお聞かせください。
在宅で使える機器の開発に期待したいです。患者様自身がご自宅で脊柱起立筋と大腰筋だけでも緩めることができればいいですよね。新型コロナ後遺症だけでなく、慢性的な疼痛をきたす線維筋痛症の方や新型コロナ後遺症と同様に倦怠感などの症状がある膠原病の方など、かなりの数の潜在的なニーズがあると思います。そう遠くないうちに、内科疾患でも立体動態波や超音波を使う時代が来るのではないでしょうか。そうなると、これからより多くの患者様を救うことができるようになりますね。
新型コロナ後遺症に関しては、まだまだ解明されていないことも多く、どんどん状況が更新されていく中で大変な側面もあると思います。最後に、このインタビューをお読みの医療従事者・医療関係者にお伝えしたいことをお聞かせください。
「あなたにも救える命があります。あなたにしか救えない命があります」ということをお伝えしたいです。たとえば、ある地域にはコメディカル施設しかなかったとします。その地域の方々が新型コロナ後遺症の影響で自律神経が乱れてしまったり、脊柱起立筋や大腰筋が硬くなってしまった場合、身近で治療を受けるにはそこしかありません。そこにいらっしゃる先生にしか頼れないのです。そんな時にそこで物理療法機器を使った施術を受けられたなら、結果的にその院に行くことで救われる人がたくさん出てきます。実際には東京・渋谷にある当院に、北海道や東北、沖縄などの遠方から苦しみながら時間をかけて受診に来られる患者様もいます。そのような状況を変えるためにも、全国各地の先生には治療をお願いしたいですし、伊藤超短波のみなさまにも物理療法機器の普及を通してご協力をお願いしたいと思います。
PROFILE
平畑 光一 理事長/院長
山形大学医学部卒業。東邦大学大橋病院消化器内科で大腸カメラ挿入時の疼痛、胃酸逆流に伴う症状などについて研究。胃腸疾患の他、膵炎など消化器全般の診療に携わった。2008年7月よりヒラハタクリニック院長。医療向けIT企業(株)メイドインクリニックを設立。日本消化器内視鏡学会専門医、日本医師会認定産業医、日本内科学会認定医、旧通産省認定 第一種情報処理技術者 LPIC Level 1取得
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